太極拳で高齢者の転倒を予防？最新研究が示す効果とは

高齢者の転倒は深刻な問題

高齢者にとって「転倒」は単なるケガではなく、骨折や寝たきりのリスクを高める重大な問題です。特に、70歳以上の方々では、転倒による骨折がその後の生活の質を大きく左右することも少なくありません。

近年、転倒予防のための運動療法が注目されていますが、なかでも「太極拳」は有望な方法として研究されています。今回は、中国Shanghai University of SportのLiらがJAMA Internal Medicineに発表した**「太極拳と転倒リスクの関係」**について、一般の方にもわかりやすく解説します。

研究の概要

対象者

• 70歳以上の高齢者670名
• 過去1年以内に転倒歴がある、またはモビリティ障害がある人

グループ分け

1. ストレッチ群：一般的なストレッチ運動を行う
2. TJQMBB群（太極拳ベースの新介入法）
3. MME群（modified forms and therapeutic movement exercises：修正された形の運動療法）

評価方法

• 6ヶ月後の転倒頻度を比較

研究の結果：太極拳が最も有効！

6ヶ月間の観察後、転倒発生率を比較したところ、

• ストレッチ群に比べ、TJQMBB群は転倒発生率が58%低下（IRR:0.42）
• ストレッチ群に比べ、MME群は転倒発生率が40%低下（IRR:0.60）
• TJQMBB群はMME群と比べても31%転倒率が低かった

つまり、ストレッチだけでなく、筋力トレーニングを取り入れた運動よりも太極拳の方が転倒予防に優れていたことがわかりました。

なぜ太極拳が転倒予防に効くのか？

1. バランス能力の向上
   • 太極拳はゆっくりした動作を繰り返すことで、体のバランスを取る力を鍛えます。
2. 足腰の筋力強化
   • 転倒を防ぐためには、単に筋肉を鍛えるだけでなく、適切な使い方を身につけることが重要です。
   • 太極拳は、下半身の安定性を高め、つまずきにくくする効果があると考えられています。
3. 認知機能の向上
   • 転倒には、単なる筋力不足だけでなく、「注意力」も関係します。
   • 太極拳のゆっくりとした動作は、脳の認知機能を刺激し、注意力や反応速度を向上させる可能性があります。
4. リラックス効果とストレス軽減
   • 転倒のリスクは、ストレスや不安によっても高まることが知られています。
   • 太極拳は深い呼吸を意識するため、ストレスを軽減し、リラックスした状態を作るのに役立ちます。

太極拳の転倒予防効果を示す他の研究

実は、太極拳の転倒予防効果にはすでにメタ解析（複数の研究を統合した分析）による裏付けがあります。

• 2017年のメタ解析（PMID: 28736853） では、太極拳が高齢者の転倒リスクを有意に低下させることが報告されています。
• 他の研究でも、週2回以上の太極拳練習が転倒リスクを30%以上減少させる可能性があるとされています。

まとめ：太極拳は高齢者の転倒予防に最適な運動

• 高齢者の転倒は大きな健康リスクであり、予防が重要。
• 太極拳はストレッチや筋トレよりも効果的に転倒リスクを低減する。
• バランス能力の向上、筋力強化、認知機能の向上など、多くのメリットがある。
• 既存の研究やメタ解析も、太極拳の効果を支持している。

高齢者の健康維持には適度な運動が欠かせません。特に転倒リスクが気になる方は、太極拳を取り入れることを検討してみてはいかがでしょうか？

参考文献

• Li F, Harmer P, Fitzgerald K, et al. Effectiveness of a Therapeutic Tai Ji Quan Intervention vs a Multimodal Exercise Intervention to Prevent Falls Among Older Adults at High Risk of Falling: A Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2018; Online first. PMID: 28736853
• Sherrington C, Fairhall NJ, Wallbank GK, et al. Exercise for preventing falls in older people living in the community: an abridged Cochrane systematic review. Br J Sports Med. 2019;53(17):907-912.

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ラスバル整骨院 栁澤 昂希